案件ごとの採算は見えていますか?受注前と完了後に確認したい粗利と手残り

見積を出すとき、頭にあるのは「この金額で受注できるか」で、「この金額でいくら残るか」までは考えていないことがあります。忙しい会社ほど、採算の確認は後回しになりがちです。
外注費や材料費、追加対応を差し引くと、売上額では大きく見えた仕事でも、手元には思ったほど残らないことがあります。
この記事では、案件ごとの採算に注目し、受注前に確認したい粗利・外注費・追加対応・入金時期と、完了後の振り返り方を整理します。売上額だけで判断せず、案件ごとの手残りを見直すための考え方を解説します。
1. 忙しいのに利益が残らないときは「案件ごとの採算」を確認する
まず、忙しさと利益が一致しない理由を確認しておきましょう。仕事の量が増えていても、案件ごとの採算が見えていないと、どの仕事で利益が残り、どの仕事で利益が薄くなっているのか判断しにくくなります。
1-1. 予定が埋まっていても、利益が残るとは限らない
予定が埋まっていても、会社に利益が残るとは限りません。仕事の量と、その仕事で実際に残る利益は別のものだからです。
受注が途切れず、現場や制作が常に動いていると、経営は順調に見えます。ところが案件ごとに見ると、利益がしっかり残る仕事と、手間はかかるのにほとんど残らない仕事が混ざっていることがあります。利益や手元資金が思うように増えない会社では、この「残りにくい仕事」が一定の割合を占めているケースもあります。
忙しく動いていることと、利益が残っていることは同じではありません。仕事の量だけでなく、1件ごとにいくら残るのかを見ることで、忙しさと利益のずれに気づきやすくなります。
1-2. 「売上額が大きい案件=良い案件」とは限らない
売上額が大きい案件が、必ず良い案件とは限りません。売上が大きくても、それを進めるためにかかった費用が大きければ、粗利として残る金額は小さくなるからです。
たとえば、金額の大きい工事、制作、受託業務ほど、外注先への支払いや材料の仕入れ、予定外の手直しが増えることがあります。売上額だけを見て「大きな仕事が取れた」と考えていると、完了後に振り返ったとき、思ったほど利益が残っていないこともあります。
良い案件かどうかは、取れた金額ではなく、残る金額で考えます。
2. 会社全体の黒字と、案件ごとの採算は別物
次に、決算書や試算表だけでは案件ごとの採算が見えにくい理由を整理します。会社全体の数字と案件単位の数字は、見ている範囲が違います。
2-1. 決算や試算表は「会社全体」の数字
決算書や試算表は、会社全体をまとめた数字です。1件ごとの案件がそれぞれいくら残ったかは、そのままでは分かりません。
試算表や決算書は、会社全体の売上・費用・利益を集計したものです。経営の全体像をつかむには役立ちます。ただ、「どの案件で利益が残り、どの案件で利益が薄くなっているか」までは、通常そこから読み取れません。
会社全体で黒字でも、その中に採算の薄い案件や、実質的に赤字に近い案件が混ざっていることがあります。会社全体の数字を見ることと、案件ごとの採算を見ることは、分けて考える必要があります。
数字の見方の基本については、「決算書を経営判断に活かすには?見るべき数字と見方の順番を解説」でも整理しています。会社全体の数字を押さえたうえで、本記事では案件ごとの採算を確認する視点を見ていきます。
2-2. 全社の数字では良い案件と悪い案件が混ざってしまう
会社全体の数字では、採算の良い案件と薄い案件が混ざって見えます。利益の出る案件と、ほとんど残らない案件が合算されるため、平均的な結果として見えてしまうからです。
利益率の高い案件が採算の薄い案件を補っていると、全体としては「そこそこ利益が出ている」ように見えます。しかし、その裏側では、採算の薄い案件が、利益率の高い案件で得た利益を削っています。
この状態を図にすると、次のようになります。

図のように、会社全体では黒字に見えても、案件ごとに分けると、利益を残している仕事と、ほとんど残っていない仕事が混ざっていることがあります。
忙しいのに利益や手元資金が増えにくいと感じたら、会社全体の数字だけでなく、案件ごとの採算にも目を向けると原因を探しやすくなります。なお、利益が残らない理由には、固定費の重さという別の側面もあります。固定費と損益分岐点の考え方については、「売上が増えても利益が残らない理由とは?固定費と損益分岐点の見方」もあわせてご覧ください。
3. 受注前に見たいのは「売上額」ではなく「残る金額」
ここからは、受注の段階で何を見ればよいかを確認します。細かい会計処理まで追いかける前に、まずは「この案件でいくら残りそうか」を大まかに確認してみましょう。
3-1. 受注前に確認したい4つの項目
受注の可否は、取れる金額ではなく、残る金額で考えます。受注前に確認したいのは、次の4つです。
・粗利
売上から、その案件に直接かかる外注費・材料費・仕入原価などを引いて、いくら残りそうか。
・外注費
どの工程をいくらで外注するのか。その外注費が粗利を圧迫しすぎていないか。
・追加対応の発生余地
仕様変更、手直し、急な差し込み対応など、見積に入っていない作業が起こりやすい案件か。
・回収までの期間
入金がいつになるのか。その前に外注費や材料費の支払いが先に来ないか。
受注前に確認したい4つのポイントを図でも確認してみましょう。

すべてを最初から細かく管理する必要はありません。まずはこの4点を1件ずつ確認するだけでも、売上額だけで受注を判断する状態から抜け出しやすくなります。
ここでいう「手残り」は、売上からその案件に直接かかる費用を引いた概算の金額です。会社全体の固定費を差し引いた最終的な利益とは異なり、借入返済などによる現金の減少も反映していません。
難しい計算から始める必要はありません。1件ずつ、売上からその案件にかかる費用を引き、どのくらい残りそうかを見るだけでも、受注判断の精度は変わります。
3-2. 「断りたくない」気持ちで採算を後回しにしない
受注の判断では、「断りたくない」という気持ちから、採算の確認が後回しになることがあります。仕事を切らしたくない、取引先との関係を保ちたい、予定を埋めておきたい、と考えやすいためです。
予定に空きがあると、採算が薄くても「何もしないよりはよい」と感じることがあります。その感覚自体は自然です。そのまま採算の薄い案件で予定を埋め続けると、忙しいのに利益が残らない状態から抜け出しにくくなります。
受注するかどうかは、空いているかどうかだけでなく、その案件でいくら残るかを見て判断したいところです。
4. まず終わった案件を振り返ると、見え方が変わる
受注前にすべてを正確に見積もるのは簡単ではありません。そこで、まずは完了した案件を振り返り、次の見積や受注判断に活かす方法を確認します。
4-1. 最初から細かく管理しすぎなくてよい
案件ごとの採算は、最初から細かく記録しようとしなくても大丈夫です。完了した案件を1件振り返るだけでも、次の見積に活かせる材料が見えてきます。
受注前から正確な採算を出せる会社ばかりではありません。最初から完璧な仕組みを作ろうとすると、管理の負担が重くなり、かえって続かなくなることがあります。
まずは終わった案件について、売上、外注費、材料費、追加対応、入金時期を後から並べ、いくら残ったのかを確認するところから始めれば十分です。完璧さよりも、続けられる形にすることを優先しましょう。
4-2. 見積と実績のズレが次の判断につながる
振り返りで見たいのは、受注時の見積と実績のズレです。どこで想定が外れたかが分かれば、次の見積や受注判断に反映できるからです。
たとえば、想定より外注費がかかった、追加対応が無償になっていた、材料費が上がっていた、入金が想定より遅かった、といったズレが見えてきます。こうしたズレは、特定の案件や取引先で繰り返し起きていることがあります。
1件ずつ振り返ると、自社が利益を残しにくいパターンが見えてきます。受注前の判断の精度は、完了後の振り返りを続けることで少しずつ上がっていきます。
5. 採算の薄い案件・取引先をどう見直すか
振り返りによって採算の薄い案件や取引先が見えてきたら、そのままにせず見直すことが必要です。ここでは、価格や条件を見直すときの着眼点を整理します。
5-1. 見直しの着眼点
採算が薄い案件を特定したら、次のような点を確認します。放置したまま受注を増やしても、手元資金は楽になりにくいためです。
・値引きを前提に受注していないか
はじめから値引きありきで、粗利が薄くなっていないかを確認します。
・追加対応を無償で引き受けていないか
見積外の作業が、そのまま自社負担になっていないかを確認します。
・特定の取引先に依存していないか
条件の悪い取引先の比重が大きくなっていないかを確認します。
・短納期や急な変更が常態化していないか
無理な条件が、見えにくいコストとして利益を削っていないかを確認します。
・入金条件が資金繰りを圧迫していないか
外注費や材料費の支払いが先に発生し、入金が後になる状態が続いていないかを確認します。
5-2. 見直しは「やめる」だけではない
採算の見直しは、案件をやめることだけが選択肢ではありません。価格や条件を整えることで、利益の残る案件に変えられる場合もあります。
採算が薄いと分かった案件でも、価格交渉、追加対応のルール化、納期や支払条件の見直しによって、利益が残る案件に変えられることがあります。長く続けてきた取引ほど、条件を見直す機会がないまま続きがちです。これまでの条件を整理し直すことで、採算を改善できることもあります。
取引先との価格交渉や契約条件の見直しは、関係に配慮しながら進めたい部分です。自社だけで判断しにくい場合は、経営管理や法務財務の視点から、外部の専門家と一緒に整理することも選択肢になります。
6. 想定事例
ここでは、案件ごと・取引先ごとの採算が見えていなかった2つの想定事例を紹介します。自社の状況に当てはめて考える際の参考にしてください。
A社の事例:売上額の大きい案件で利益が残らなかったケース
内装工事を手がけるA社は、金額の大きい案件を優先して受注していました。売上額が大きいほど良い仕事だと考えていたためです。
ところが完了後に振り返ると、金額の大きい案件ほど外注の比重が高く、現場での追加対応も多く発生していました。売上は大きいものの、外注費と追加対応で粗利が削られ、手元には思ったほど残っていませんでした。
このケースの問題は、売上額だけで案件の良し悪しを判断していたことです。受注前に粗利と外注費まで見ていれば、金額の大きさに引きずられず、条件の見直しや受注判断を検討できたはずです。
B社の事例:長年の取引先で条件を見直せなかったケース
Web制作を行うB社は、長年付き合いのある取引先からの依頼を、条件を見直さないまま受け続けていました。関係を大切にしたいという思いがあり、価格や納期の相談を切り出しにくかったためです。
しかし、その取引先からの案件は、値引きが前提になっており、短納期や追加修正も多く、入金も遅れがちでした。1件ごとの負担が積み重なり、稼働は埋まっているのに手元資金が圧迫される状態が続いていました。
このケースの問題は、取引先単位で採算を見ていなかったことです。取引先ごとに採算を確認していれば、関係を保ちながらも、価格、納期、追加対応、支払条件の見直しを切り出すきっかけをつかめたはずです。
7. まとめ
案件ごとの採算という視点から、受注前と完了後に確認したい数字を整理してきました。最後に要点を3つにまとめます。
- 忙しさと採算は別物であり、会社全体では黒字に見えても、利益の残る案件とほとんど残らない案件が混ざっていることがある
- 受注前は売上額だけで判断せず、粗利・外注費・追加対応の発生余地・回収までの期間を見て、案件ごとに残る金額を確認する
- 最初から細かく記録しようとせず、終わった案件を1件ずつ振り返り、次の見積、受注判断、価格や条件の見直しにつなげる
案件ごとの採算は、難しい仕組みを作らなくても、終わった案件を振り返るところから確認できます。まずは1件ずつ、売上額ではなく残る金額を見直し、次の見積や取引条件の判断につなげていきましょう。
*記事内の事例(ケース)については、フラット経営事務所・行政書士法人フラット法務事務所で経験したものだけでなく想定ケースも含まれ、実際の事例とは異なることがあります。また、関係法令は記載した時点のものです。
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