株主総会を開かずに決議できる?書面決議・みなし決議の使い方と注意点

小規模な一人会社や家族会社、少人数株主会社では、株主総会を形式どおり開かず、書面やメールで決議を済ませたい場面があります。株主全員が内容を理解していると、「わざわざ集まって総会を開かなくてもよいのでは」と感じることもあるでしょう。
ただし、株主総会を開かずに決議を成立させるには、会社法上の要件を満たし、後から確認できる記録を残しておく必要があります。口頭で「全員が賛成していた」と説明するだけでは、登記・融資審査・補助金申請などの場面で決議の経緯を確認し直すことになり、手続きに時間がかかることがあります。
この記事では、株主総会を開かずに決議できる書面決議・みなし決議の要件、通常の株主総会との違い、残すべき書類、一人会社・少人数会社が確認したい注意点を解説します。
1.株主総会を開かずに決議できる場合がある
株主総会は、原則として株主を招集して開催し、議題について決議を行う手続きです。ただし、一定の要件を満たす場合には、実際に株主総会を開かなくても、株主総会の決議があったものとして扱える場合があります。
1-1.原則は株主総会を開催して決議する
株式会社では、役員選任、役員報酬、定款変更、増資に関する事項など、会社の重要な判断を株主総会で決める場面があります。通常は、招集通知を出し、株主総会を開催した上で、議案への賛否を確認し、議事録を作成します。
一人会社や家族会社では、「関係者全員が内容を分かっている」「わざわざ集まって話すほどではない」と感じることもあります。しかし、登記や融資審査などで後から確認されることがあるため、株主総会の手続きを簡略化する場合でも、どの方法で決議したのかを記録で確認できる形にしておくことが重要です。
2.書面決議・みなし決議とは何か
書面決議・みなし決議とは、実際に株主総会を開かずに、株主総会の決議があったものとして扱う手続です。会社法上は「株主総会の決議の省略」として定められており、実務では「書面決議」「みなし決議」「株主総会決議の省略」などと呼ばれることがあります。
具体的には、取締役または株主が株主総会の目的事項について提案し、その提案について議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意した場合に、株主総会の決議があったものとみなされます。
2-1.招集手続の省略や書面投票とは異なる
書面決議・みなし決議は、招集手続の省略や書面投票とは異なります。
招集手続の省略は、株主全員の同意を得て正式な招集通知を省略し、株主総会を開催する方法です。この場合、招集通知は省略できますが、株主総会自体は開かれます。
これに対して、書面決議・みなし決議では、株主総会そのものを実際には開催せず、全員の同意により決議があったものとして扱います。招集手続の省略については「株主総会の招集通知はいつまでに必要?期限・通知方法・電子メール対応の注意点」も参考にしてください。
また、書面投票は、株主総会を開催した上で、株主が書面によって議決権を行使する方法です。名称が似ていますが、「株主総会を開いた上で投票するのか」「株主総会を開かずに決議したものと扱うのか」が異なります。
2-2.書面決議・みなし決議の要件
書面決議・みなし決議では、株主同士が内容を知っていたとしても、同意の記録が残っていなければ、後から決議の経緯を説明しにくくなります。誰が何を提案し、誰がどのような形で同意したのかを確認できる状態にしておきましょう。
2-3.取締役または株主が決議事項を提案する
書面決議・みなし決議では、まず取締役または株主が、株主総会で決める事項について提案します。
取締役の再任、役員報酬の決定、定款変更、募集株式の発行など、株主総会で決議すべき事項について、提案内容を明確にしておく必要があります。
後から確認できるよう、提案書には議案の内容、提案者、提案日、同意の方法などを記載しておくと整理しやすくなります。
2-4.議決権を行使できる株主全員の同意が必要
書面決議・みなし決議では、その議案について議決権を行使できる株主全員の同意が必要です。
通常の普通決議や特別決議では、一定の出席割合や賛成割合を満たせば決議が成立します。しかし、書面決議・みなし決議では、実際に株主総会を開催しない代わりに、対象となる株主全員の同意が求められます。
1人でも反対している株主や、同意を確認できない株主がいる場合、その議案について書面決議・みなし決議として処理することはできません。
2-5.同意は書面または電磁的記録で残す
株主の同意は、書面または電磁的記録で残す必要があります。同意書を作成する場合は、株主の氏名、同意する議案、同意日などを記載してもらう方法が一般的です。
メールで同意を取得する場合も、議案の内容と同意の意思が本文上で明確にわかる形にしておきましょう。「了解です」といった曖昧な文面ではなく、どの議案に同意しているのかが確認できる内容を残しておくことが大切です。
3.書面決議・みなし決議で残すべき書類
書面決議・みなし決議は、実際に株主総会を開かない分、記録の残し方が重要になります。提案内容、同意の有無、決議があったものとみなされた日を後から確認できるようにしておきましょう。
3-1.提案書を作成する
まず、株主に対してどのような事項を提案したのかを示す提案書を作成します。
提案書には、会社名、提案者、提案日、議案の内容、同意の方法、回答期限などを記載しておくと、後から確認しやすくなります。議案が複数ある場合は、それぞれの議案について同意を確認できるように整理しておきましょう。
3-2.同意書または同意の記録を残す
株主全員の同意は、同意書や電子メールなどで記録に残します。
同意書を使う場合は、株主名、同意する議案、同意日、署名または記名押印などを記載するのが一般的です。メールで同意を取得する場合も、どの議案に同意しているのかが本文上で明確にわかる内容にしておきましょう。
3-3.株主総会議事録も作成する
書面決議・みなし決議では、実際に株主総会を開いていなくても、株主総会議事録を作成します。
通常の株主総会議事録とは記載内容が異なり、主に、決議があったものとみなされた事項の内容、提案者の氏名または名称、決議があったものとみなされた日、議事録作成に係る職務を行った取締役の氏名などを記載します。
「実際に会議をしていないから議事録はいらない」と考えてしまうと、登記や融資審査の場面で確認に時間がかかることがあります。議事録の押印・保存については「株主総会議事録に押印は必要?訂正・保存方法と作成時の注意点」も参考にしてください。
3-4.同意書・電磁的記録は10年間備え置く
書面決議・みなし決議で株主総会の決議があったものとみなされた場合、会社はその同意を示す書面または電磁的記録を本店に10年間備え置く必要があります。
同意書を作成して終わりにせず、どこに保管するか、電子データの場合はどのフォルダで管理するか、バックアップをどう取るかまで決めておくと安心です。
4.一人会社・少人数会社で使うときの注意点
書面決議・みなし決議は、一人会社や少人数株主会社で使いやすい方法です。ただし、簡単に見えるからこそ、要件や記録を曖昧にしたまま進めないよう注意が必要です。
4-1.一人会社でも記録は残す
株主も取締役も自分だけの一人会社では、「自分で決めたことだから書類はいらない」と考えてしまうことがあります。
しかし、役員変更登記、融資審査、補助金申請、事業承継、M&Aなどでは、過去の株主総会決議や議事録を確認されることがあります。一人会社の場合でも、提案内容、同意した事実、決議があったものとみなされた日を記録として残しておきましょう。
4-2.家族会社でも口頭だけで済ませない
家族だけが株主の会社でも、書面決議・みなし決議を使う場合は口頭だけで済ませないようにしましょう。
相続、株式譲渡、親族間の関係変化などが起きると、過去の決議手続が後から確認されることがあります。家族会社ほど、当時の同意を客観的に示せる書類やメールを残しておくことが、将来の説明材料になります。
4-3.株主が増えた会社では慎重に判断する
外部投資家が入った会社、共同創業者が退職した会社、相続により株主が増えた会社では、全員の同意を取ることが難しくなる場合があります。
同意を確認できない株主がいる場合は、書面決議・みなし決議ではなく、通常どおり株主総会を開催する方法を検討する必要があります。株主構成が変わった会社では、現在の株主名簿を確認してから判断しましょう。
5.書面決議・みなし決議で間違えやすいポイント
書面決議・みなし決議は便利な方法ですが、実務で誤解しやすいポイントがあります。特に、全員同意の意味と、登記が関係する決議の記録方法には注意が必要です。
5-1.「反対がない」「過半数の賛成」ではなく全員同意を確認する
書面決議・みなし決議では、通常の普通決議のように過半数の賛成で成立するわけではありません。また、「反対がなかった」「返事がなかった」という状態でも要件を満たしません。
議決権を行使できる株主全員が、書面または電磁的記録によって明確に同意していることが必要です。未回答の株主がいる場合は、書面決議・みなし決議として処理できません。
5-2.登記が関係する決議では記載内容を確認する
役員変更、募集株式の発行、定款変更など、登記が関係する決議では、議事録や同意書の記載内容を特に確認しておく必要があります。
書面決議・みなし決議で決議した場合でも、登記申請では株主総会議事録などの提出が必要になることがあります。議案の内容、決議日、提案者、同意状況などが曖昧だと、後から書類の修正や確認が必要になる可能性があります。
6.想定ケース
ここでは、書面決議・みなし決議をめぐって実務上起こりやすい場面を、想定ケースで整理します。
A社の事例|全員同意のつもりだったが同意書を残していなかったケース
A社は、創業者2名が株主の会社です。役員の再任について2人とも賛成していたため、実際に株主総会を開かずに手続きを済ませたつもりでいました。
しかし、後日、融資審査の場面で過去の役員選任の記録を確認された際、同意書や議事録が残っていませんでした。2人の間では合意があったものの、いつ、どの内容について同意したのかを示す資料がなく、確認に時間がかかりました。
書面決議・みなし決議を使う場合は、株主全員の同意を取るだけでなく、提案書・同意書・議事録を残しておく必要があります。少人数会社ほど、口頭の合意で済ませず、後から確認できる形で記録を残しておくことが大切です。
7.まとめ
株主総会を開かずに決議する書面決議・みなし決議について、特に確認しておきたいポイントは次の3つです。
- 書面決議・みなし決議は、株主総会を実際に開かず、決議があったものとして扱う手続です。利用するには、議決権を行使できる株主全員が、書面または電磁的記録で明確に同意していることが必要です。
- 1人でも同意を確認できない株主がいる場合は、書面決議・みなし決議として進めることはできません。「反対がない」「過半数が賛成している」という状態ではなく、全員の同意がそろっているかを確認しましょう。
- 一人会社・少人数会社でも、提案書・同意書・議事録を残しておくことが大切です。登記・融資審査・補助金申請などの場面で、会社としてどのように意思決定したのかを後から説明できる状態にしておきましょう。
招集通知や招集手続の省略については「株主総会の招集通知はいつまでに必要?期限・通知方法・電子メール対応の注意点」、議事録の押印・保存については「株主総会議事録に押印は必要?訂正・保存方法と作成時の注意点」も合わせて確認しておくことをお勧めします。
*記事内の事例(ケース)については、フラット経営事務所・行政書士法人フラット法務事務所で経験したものだけでなく想定ケースも含まれ、実際の事例とは異なることがあります。また、関係法令は記載した時点のものです。
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