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投資契約書で確認すべきポイントとは?増資で資金調達するときの条項と注意点

2026 8/27
法務
2026年8月27日

 同じ増資でも、投資契約書の中身次第で、調達後の経営のしやすさは大きく変わります。

 出資額と株式数が同じでも、事前承諾事項の範囲や買取条項の有無が違えば、締結後に会社や経営者が負う義務・負担は大きく変わるためです。

 この記事では、署名前に確認したい条項を3つの種類に分け、見る順番と注意点を整理します。 

目次

1. 投資契約書は「出資の条件」と「調達後のルール」を定める契約書

 投資契約書は、出資の金額だけを決める書面ではありません。まずは、この契約書がどのような性質のもので、なぜ条項の確認が必要になるのかを押さえます。

1-1. 投資契約書に決まったひな形はなく、内容は案件ごとに異なる

 投資契約書の内容は、法律で決められた定型があるわけではなく、案件ごとに異なります。投資契約書は、出資の条件や調達後の会社運営のルールを当事者間で定める契約であり、投資家の方針や出資の規模、会社の状況によって、置かれる条項が変わるためです。

 そのため、「前に見たことがある内容と同じだろう」という前提で読み飛ばすことはできません。届いたドラフトそのものを、一つずつ確認していく必要があります。

1-2. 株主間契約書とセットで提示されることがある

 投資契約書は、株主間契約書(株主同士の取り決めを定める契約書)とセットで提示されることがあります。出資の実行に関する条件と、出資後の株主間のルールを、別の書面に分けて定められることがあるためです。

 2つの書面が届いた場合は、片方だけ確認して署名することのないよう注意が必要です。投資契約書と株主間契約書の違いについては、「投資契約書と株主間契約書の違いとは?スタートアップ企業ベンチャー企業に重要論点を解説」でも整理しています。

 本記事では、書面の種類の違いではなく、投資契約書と株主間契約書の違いを押さえたうえで、ここからは投資契約書に置かれる条項を、どの順番で確認するかに絞って説明します。 

1-3. 投資家側のドラフトでも、内容の確認と協議はできる

 投資家側が用意したドラフトであっても、会社側が内容を確認し、必要に応じて協議する余地はあります。契約は双方の合意で成り立つものであり、提示された内容にそのまま署名しなければならないわけではないためです。

 ただし、どこまで修正できるかは、投資家との関係、出資条件、交渉の状況によって変わります。「修正をお願いできるかどうか」を考える前に、まず「どの条項が自社にとって重いのか」を把握しておく必要があります。 

 本記事では、出資時に提示される契約書類の条項を次の3つに分けて確認します。まず全体像を図で押さえます。 

 この順番で読み進めると、手元のドラフトのどの条項から見ればよいかが整理しやすくなります。 

2. 出資の基本条件に関する条項

 最初に確認するのは、「いくらで、何株を、いつ」という出資の骨格です。ここが契約書の土台になる部分なので、数字と条件を丁寧に見ていきます。

2-1. 株式数・払込金額・払込期日を確認する

 発行する株式の数、1株あたりの払込金額、払込みの期日は、事前の合意と一致しているかを最初に確認します。口頭やメールなどで決めた条件と、契約書の記載がずれていることは実務上起こりうるためです。

 あわせて、出資が実行される前提条件(クロージング条件と呼ばれることがあります)が置かれている場合は、その内容も確認しておきます。

 株式発行の手続き全体については、「株式発行手続きと投資契約を徹底解説!スタートアップが押さえるべきポイント」でも整理しています。本記事では、発行手続きそのものよりも、投資契約書で確認したい条項の見方を中心に扱います。

2-2. 資金使途の定めを確認する

 調達した資金の使いみち(資金使途)を定める条項がある場合は、その範囲を確認します。資金使途が具体的に限定されていると、事業環境の変化に応じてお金の使い方を変えたいときに、契約上の制約になることがあるためです。

 事業計画どおりに進まない場合も想定して、自社にとって現実的な範囲になっているかを見ておきます。資金の使い方は経営判断の中心にある事項なので、軽く読み流さないようにしたい条項です。

2-3. 表明保証は範囲を確認する

 表明保証とは、契約時点の会社の状況について、一定の事項が真実かつ正確であることを表明・保証する条項です。財務内容や法令遵守の状況、係争の有無などについて、投資家の出資判断の前提を確認する目的で置かれることがあります。

 内容が事実と異なる場合には、契約上の責任や補償の問題につながることがあります。確認したいのは、表明保証の対象となる事項が、自社の実態に照らして正確に表明できる内容になっているかという点です。

 事実と異なる内容のまま署名しないよう、一項目ずつ自社の状況と突き合わせておく必要があります。

3. 調達後の会社運営に関わる条項

 出資の条件と並んで見落としやすいのが、調達した後の会社運営に関わる条項です。株主が増えることによる会社運営への影響は、持株比率や議決権の設計とも関わります。ここでは、経営の自由度に影響しうる条項を確認します。

3-1. 事前承諾・事前通知事項は「日常の経営判断」に及んでいないか確認する

 事前承諾事項(一定の行為の前に投資家の承諾を得るとする条項)は、その範囲を丁寧に確認したいところです。重要な意思決定に限定されていれば運営への影響は比較的小さい一方、範囲が広いと、日常に近い経営判断まで投資家への確認が必要になり、意思決定のスピードが落ちることがあるためです。

 具体的には、対象となる行為の一覧を見て、自社の日常業務で頻繁に発生する事項が含まれていないかを確かめます。含まれている場合は、範囲や金額基準について投資家と協議する余地があります。事前通知事項についても、承諾までは求められないものの、通知の対象・期限・方法を確認します。

3-2. 情報提供・報告義務はどこまで対応できる内容か確認する

 投資家への情報提供や定期報告を定める条項は、自社の体制で無理なく対応できる内容かを確認します。月次の試算表や事業報告など、提出物の種類と頻度によっては、経理の担当者が少ない会社にとって継続的な負担になることがあるためです。

 報告そのものは株主との信頼関係を保つうえで意味のある取り組みです。ただし、負担が大きすぎる場合は、頻度や内容の調整を協議することも考えられます。

 締結前に「誰が、いつ、何を用意するのか」を具体的に思い描いておくと、無理のない約束にしやすくなります。

3-3. 役員派遣・オブザーバーに関する条項の有無を確認する

 投資家の関与方法として、役員の派遣や、取締役会などへのオブザーバー参加(取締役としての議決権を持たずに会議へ出席すること)に関する条項が置かれることがあります。こうした条項があると、会社の重要な議論の場に投資家側の視点が継続的に入ることになり、経営体制の設計にも関わります。

 条項の有無と、参加の範囲がどう定められているかを確認し、自社の意思決定の進め方と両立するかを考えておきます。

4. 経営者個人の負担につながりやすい条項は慎重に確認する

 投資契約書の中には、会社だけでなく、経営者個人に義務や負担が及びうる条項が含まれることがあります。署名前に特に時間をかけて確認したいのは、この部分です。

4-1. 株式の買取条項は、対象者・発生条件・金額を確認する

 投資契約書によっては、一定の契約違反や表明保証違反があった場合などに、投資家が会社または経営者に対して保有株式の買取りを請求できる条項が置かれることがあります。買取りの条件や範囲は契約によって大きく異なり、内容次第では、会社や経営者に想定外の大きな負担が生じることがあるためです。

 確認したいのは、買取請求の対象となるのは誰か、どのような場合に請求されるのか、金額はどう計算されるのかという3点です。会社が買い取る場合には、自己株式取得の手続や分配可能額の制限も関わります。また、公正取引委員会の指針では、経営株主等の個人を請求対象から除くことが競争政策上望ましいとされています。

 株式の買取条項では、次の3点を分けて確認すると読みやすくなります。 

 3点のうちどれか一つでもドラフトから読み取れない場合は、条項の意味を確かめてから判断します。

 判断に迷う場合は、署名前に専門家へ確認したい部分です。

4-2. 契約違反時の取り扱い・損害賠償の定めを確認する

 契約に違反した場合の取り扱いを定める条項も、署名前に確認しておきます。違反時の通知や協議の手順、損害賠償の範囲などが定められていることがあり、その内容によって、万一のときの負担の大きさが変わるためです。

 「違反しなければ関係ない」と考えて読み飛ばすのではなく、表明保証や事前承諾事項など、他の条項と組み合わせてどのような場合に違反となりうるのかを含めて確認しておくと、契約全体のリスクが見えやすくなります。

5. 想定事例

 投資契約書の条項は、締結の時点では問題が見えにくく、調達後の運営の中で影響が表面化することがあります。ここでは、実務で起こりやすい2件の想定ケースを紹介します。

A社の事例:事前承諾事項が広く、日常の経営判断に時間がかかるようになったケース

 A社では、初めての外部調達で提示された投資契約書を、大きな修正なく締結しました。契約書には事前承諾事項が幅広く定められていましたが、締結時には「重要なことだけ相談すればよいのだろう」と考えていました。

 調達後、一定額以上の支出や新規の取引開始のたびに投資家への確認が必要になり、日常の経営判断に想定以上の時間がかかるようになりました。

 このケースで必要だったのは、締結前に事前承諾事項の一覧を自社の日常業務と突き合わせ、範囲や金額基準について投資家と協議することでした。

B社の事例:買取条項を確認せず、経営者個人の負担が後から問題になったケース

 B社では、出資額と株式数だけを確認して投資契約書に署名しました。数年後、契約上の義務の内容をめぐって投資家との関係が悪化した際、契約書に株式の買取りに関する条項があり、その内容が経営者個人にも及ぶものだったことに初めて気づきました。

 締結時に内容を把握していなかったため、対応の検討にも時間がかかり、精神的な負担も大きなものになりました。

 このケースで確認すべきだったのは、買取条項の有無と、義務を負う主体・発生条件・金額の考え方を、署名前に専門家とともに確認しておくことでした。

6. まとめ|投資契約書は署名前に条項の重さを確認する

 最後に、この記事のポイントを3点に整理します。投資契約書は、出資の金額だけでなく、調達後の会社運営や経営者個人の負担にも関わる契約書です。

  1. 株式数・払込金額・資金使途・表明保証を、事前の合意や自社の実態と突き合わせる
  2. 事前承諾・情報提供・役員派遣など、調達後の経営の自由度に関わる条項の範囲を確認する
  3. 株式の買取りや契約違反時の定めは、経営者個人が責任を負う内容になっていないかを署名前に確認する

 次に、手元のドラフトを上の3つの観点に分け、協議や確認が必要な条項を洗い出します。判断に迷う条項が残る場合は、署名の前に専門家の確認を受けておきましょう。

*記事内の事例(ケース)については、フラット経営事務所・行政書士法人フラット法務事務所で経験したものだけでなく想定ケースも含まれ、実際の事例とは異なることがあります。また、関係法令は記載した時点のものです。

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