コラム

株式発行手続きと投資契約を徹底解説!スタートアップが押さえるべきポイント

 スタートアップにとって、資金調達は事業成長の要となる重要な課題です。特に、株式発行とそれに伴う投資契約は、外部からの資金を得る上で避けて通れない手続きです。しかし、このプロセスは複雑であり、誤った手続きを踏むと、企業の存続や将来の成長に影響を与える可能性があります。本記事では、スタートアップが押さえるべき株式発行手続きと投資契約のポイントを、具体的な事例を交えながら解説します。

 

 

目次

1. 株式発行手続きとは?

 株式発行手続きとは、新たな株式を発行することで、企業に資金を供給する方法です。株式を発行することで投資家から資金を集め、その資金を使って事業を拡大したり、開発を進めたりすることが可能になります。具体的な手続きは、次のようなステップで行われます。

1.1.株主総会の決議
株式を発行するためには、原則として株主総会での決議が必要です。特に、既存株主に影響を与える場合(新株発行や株式分割など)は、慎重に進める必要があります。

例:あるスタートアップ企業が事業拡大のために追加の資金を必要とし、新たな投資家から資金を調達するために株式発行を決定しました。既存の株主と協議を重ねた上で、株主総会において新株発行を承認しました。この段階でしっかりと株主の同意を得ておかないと、後の投資契約でトラブルになる可能性があります。

 

1.2.取締役会の決議
株式発行においては、取締役会の決議も重要です。取締役会は株主総会での決議を受けて、具体的な株式の発行条件や、発行先の投資家との交渉内容を決定します。

例:A社は取締役会で、新規発行株式の価格や投資契約の詳細を決める際、発行価格が市場価値に見合ったものであることを確認し、将来的な企業価値の向上を視野に入れた条件を設定しました。

 

1.3.株式発行の登記

 株式を発行した後は、法務局への登記が必要です。この登記手続きは、法的に株式の発行を証明し、企業の資本が増加したことを公示するものです。
登記が正しく行われない場合、思わぬリスクが発生することがあります。資金調達を行う際、登記の遅れが原因で投資契約が一時的に停止され、資金調達に遅れが生じたケースがありました。株式発行後の適切な登記が求められます。

 

2. 投資契約の重要性

 投資契約は、スタートアップが投資家と資金調達の合意を交わす際の契約書です。ここでは、資金提供の条件や、投資家の権利と義務、そして企業側の責任などが明記されます。投資契約をしっかりと理解し、注意深く作成することが、スタートアップにとって成功への鍵となります。

2.1.株式の種類と投資家の権利
株式発行に際しては、どの種類の株式を発行するかが重要です。普通株式、優先株式、転換社債など、投資家に提供する株式の種類によって、投資家の権利や企業の責任が大きく異なります。

例:C社は、成長段階に応じて優先株式を発行しました。これにより、投資家は優先的に配当を受ける権利を得た一方で、C社は経営権の一定のコントロールを維持することができました。このように、株式の種類を適切に選択することで、投資家の期待と企業の成長をバランス良く調整することが可能です。

 

2.2.株主間契約(SHA: Shareholders Agreement)
株主間契約は、複数の投資家が関与する場合に重要となる契約です。企業運営における意思決定のプロセスや、株式売却時のルールなどを定めることができます。

例:D社が外部投資家からの出資を受ける際、既存の創業メンバーと新規投資家との間で、株主間契約を締結しました。この契約により、投資家の過度な経営干渉を防ぎつつ、企業の成長に向けた共通の目標を定めることができました。

 

2.3.投資契約におけるデューデリジェンス

 デューデリジェンス(DD)は、投資契約を締結する前に行われる、企業の財務状況や法的リスクを評価するプロセスです。これにより、投資家は企業の健全性やリスクを正確に把握し、最終的な投資判断を行います。

例:E社は、投資契約の前に投資家から厳格なデューデリジェンスを受けました。法務面や財務面での透明性を確保していたため、迅速に契約が締結され、資金調達を成功させました。スタートアップにとっては、デューデリジェンスに備えて日頃から法務や財務の整備を行っておくことが重要です。

 

3. スタートアップが押さえるべきポイント

 スタートアップが株式発行手続きや投資契約を進める際に、特に注意すべきポイントは以下の通りです。

  1. 透明性とコミュニケーション
    既存株主や新規投資家との透明性あるコミュニケーションが、トラブルを未然に防ぐための鍵です。特に、株式発行における価格設定や契約条件の説明には、十分な時間をかけるべきです。
  2. 法務の専門家の活用
    株式発行や投資契約は、法的な複雑さを伴います。スタートアップは、法務の専門家(弁護士や行政書士)を活用し、適切な契約書作成や手続きのサポートを受けることが推奨されます。
    専門家の助言を得て、投資契約書の文言を適切に調整したことで、投資家との交渉がスムーズに進んだケースがあります。
  3. 将来の成長を見据えた資本政策
    資本政策は、単なる資金調達だけでなく、将来的な企業価値の向上や経営権の維持にも大きく影響します。現時点の資金ニーズにとどまらず、数年後の成長戦略を見据えた計画を立てることが大切です。

 

4. 投資契約書の注意点

 投資契約書は、スタートアップにとって資金調達の基盤となる重要な書類です。投資家との関係を明確にし、トラブルを避けるためにも、契約書を作成する際に慎重な検討が必要です。ここでは、特に注意すべきポイントを解説します。

4.1.ダイリューション(株式希薄化)の防止策

 ダイリューションとは、新たな株式発行によって既存株主の持ち株比率が低下する現象です。これにより、創業者や既存株主の持ち株が希薄化し、経営権を失うリスクが発生します。
契約書に「反希薄化条項(Anti-dilution Clause)」を設定することで、既存株主の持ち株比率を一定水準で保つことが可能です。

例:G社は新たな資金調達を行う際、既存株主と反希薄化条項を盛り込んだ契約を結びました。これにより、既存株主が持つ経営権の低下を防ぐことができ、双方にとって有利な条件が整いました。

 

4.2.経営権に関する条項(取締役会の構成)

 投資契約において、投資家が取締役の指名権を得る場合があります。この場合、経営に対する影響力が強まるため、企業側が過度にコントロールされるリスクを回避するための工夫が必要です。
投資家が取締役会に参加する場合でも、創業者側の経営権を保護する「経営権保護条項」を契約に盛り込むことが重要です。

例:H社は外部投資家からの出資を受けた際、取締役会における投資家の指名権を認めつつも、創業者側の意思決定権を確保するために特別な条項を設定しました。

 

4.3.エグジット(Exit)に関する条項

 投資家が資金を回収するための「エグジット戦略」も投資契約の中で重要な要素です。IPO(新規株式公開)やM&A(企業買収)による売却が一般的な手段ですが、契約書にはエグジットのタイミングや条件を詳細に定める必要があります。
例:I社は、投資家との契約で、IPOまたは一定の期間が経過した場合に投資家が持ち株を売却できる条項を盛り込みました。これにより、両者の利害が調整され、企業の長期的な成長と投資家の利益を両立させました。

 

4.4.優先残余財産分配権

 投資家が企業の清算や売却時に、他の株主よりも優先して投資資金を回収できる権利を「優先残余財産分配権」といいます。この条項により、投資家はリスクを軽減することができる一方、創業者や他の株主の取り分が減少する可能性があります。

例:J社は投資家との契約で、清算時に投資家が投資額の2倍を優先的に回収する優先残余財産分配権条項を採用しましたが、創業者側とのバランスを取るため、交渉に慎重を期しました。

 

4.5.ロックアップ条項(売却時の株式取得制限)

 スタートアップが売却やIPOに向けて急成長した際、創業者や従業員が持つ株式の一部を段階的に売却可能にする「ロックアップ条項」があります。この条項は、企業の成長過程で一度に大量の株式を売却するリスクを防ぐためのものです。
例:K社は創業者と従業員の一部が急激な売却を行わないように、一定の期間後に売却可能になるロックアップ条項を投資家との契約に盛り込みました。

 

4.6.情報開示義務と経営報告

 投資家に対して、定期的に経営状況や財務報告を行う義務が契約書に定められていることが多いです。これにより、投資家は投資先の企業が健全に成長しているかを確認することができます。企業側としても透明性を保つことで、信頼関係を維持することが重要です。
例:L社は、投資家に対して四半期ごとに詳細な経営レポートを提供する条項を設け、投資家との信頼関係を構築しました。

 投資契約書は、資金調達だけでなく、投資家と企業の関係を長期的に構築するための重要な書類です。契約内容をしっかりと把握し、投資家とのバランスを取りながら、企業の成長に合わせた契約を締結することが成功の鍵となります。

 

5.まとめ

 株式発行手続きと投資契約は、スタートアップにとって重要な資金調達の手段です。企業の成長を支えるためには、適切な手続きを踏み、投資家との信頼関係を築くことが求められます。

 

 

*記事内の事例(ケース)については、行政書士法人フラット法務事務所で経験したものだけでなく想定ケースも含まれ、実際の事例とは異なることがあります。また、関係法令は記載した時点のものです。

 

 

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