コラム

基本契約書と個別契約書の優先順位を徹底解説!知っておきたいポイントとは?

 ビジネスにおける契約は、企業間の関係を円滑に進めるための重要な要素です。特に基本契約書と個別契約書は、長期的な取引関係を築く上で欠かせないものです。しかし、これらの契約書の優先順位や適用範囲を理解していないと、トラブルや紛争の原因となることがあります。本記事では、基本契約書と個別契約書の関係性や優先順位について、事例や専門家としてのコメントを交え詳しく解説していきます。

 

 

1.基本契約書と個別契約書の違いとは?

 まず、基本契約書と個別契約書の違いを説明しておきましょう。

  • 基本契約書
    基本契約書とは、事業主間での長期的な取引関係を規定するために締結される契約書です。例えば、供給契約、業務委託契約、販売契約などがこれに該当します。基本契約書には、取引全般に関する基本的な条件やルールが記載されます。
  • 個別契約書
    一方、個別契約書は、基本契約書に基づいて締結される具体的な取引ごとの契約書です。各取引の詳細な条件、納期、価格、数量などが個別契約書に記載されます。

 

2.優先順位の原則

 では、基本契約書と個別契約書のどちらが優先されるべきなのでしょうか?この問いに対する答えは、契約書に明記された優先順位条項に依存します。

2.1. 優先順位条項がある場合

 多くの契約では、基本契約書と個別契約書の間に矛盾が生じた場合の優先順位を明記する「優先順位条項」が存在します。基本契約書が個別契約書に優先する場合もあれば、逆に個別契約書が優先されるケースもあります。例えば、基本契約書で「本契約に定める事項と個別契約書に定める事項が矛盾する場合、個別契約書が優先される」といった条項がある場合、個別契約書の条件が優先されます。

2.2. 優先順位条項がない場合

 優先順位条項が明記されていない場合は、契約内容全体の趣旨や取引慣行に基づいて判断されます。この場合、基本契約書が優先されることもありますし、個別契約書において特別な合意がされている場合には、個別契約書が優先されることもあります。

 

3.後法優先の原則

 ここで、「後法優先の原則」についても触れておきます。この原則は、「新しい契約が古い契約に優先する」という考え方です。つまり、基本契約書と個別契約書の間で内容が矛盾する場合でも、後から締結された契約書(通常は個別契約書)が優先されることを意味します。

 後法優先の原則は、特に契約の変更や追加が頻繁に行われるビジネス環境において、実務上重要な役割を果たします。これは、取引条件が変わるたびに新しい契約書を作成する必要があり、その際に過去の契約内容と矛盾が生じた場合に後の契約が優先されるべきであるという理論に基づいています。

 

4.事例

事例1: 業務委託契約における優先順位

 あるソフトウェア開発会社A社とB社は、業務委託契約を締結しました。基本契約書には「成果物の納期は、基本契約書で定めた期限を基準とする」と記載されていましたが、後に締結された個別契約書では、特定のプロジェクトに関する納期が基本契約書と異なる期限で合意されました。

 この場合、「後法優先の原則」に基づき、個別契約書が特定のプロジェクトに関する条件を明確に規定しているため、納期に関しては個別契約書が優先されると判断されました。両社は、基本契約書における納期に従っていた場合、プロジェクトが遅延していた可能性があるため、個別契約書の優先順位が功を奏したと言えるでしょう。

事例2: 供給契約における優先順位

 製造業のC社とD社は、長期的な部品供給契約を締結しました。基本契約書には、「価格改定の際には、事前に通知し合意を得ること」と明記されていました。しかし、個別契約書では、特定の部品に対して価格改定の通知なしに価格が変更されることが明記されていました。

 C社は基本契約書に基づいて価格改定の合意を求めましたが、D社は個別契約書が優先されるべきであると主張しました。最終的に裁判所は、個別契約書が特定の部品に関する明確な規定を設けていることから、個別契約書が優先されると判断しました。この事例では、後法優先の原則に基づき個別契約書の優先順位が法的にも認められたケースと言えます。

事例3: 基本契約が優先されたケース

 次に、基本契約書の条項が優先された事例を見てみましょう。

 E社とF社は、製品の継続的な供給に関する基本契約書を締結しました。この契約書には、「すべての品質基準および検査手順は、本契約に基づく規定に従うものとする」と記載されていました。その後、特定の製品に関する個別契約書が締結されましたが、この個別契約書には品質基準に関して異なる規定が含まれていました。

 取引が進む中で、F社が供給した製品に品質問題が発生し、E社は基本契約書に基づく品質基準に従って検査を行うべきだと主張しました。一方、F社は、後から締結された個別契約書の基準に従うべきだと主張しました。

 このケースでは、基本契約書が「全ての品質基準と検査手順は基本契約に基づく規定に従う」と明確に定めていたことから、裁判所は基本契約書が優先されると判断しました。この事例では、基本契約書が品質管理の基礎を成しており、個別契約書の異なる規定は基本契約書の枠内で解釈されるべきだと結論付けられました。

 

フラット法務事務所からのコメント
 基本契約書と個別契約書の優先順位は、契約書に明記された条項が重要です。契約書作成の際には、優先順位条項を明確にすることが、後々のトラブルを未然に防ぐために非常に重要です。
 また、取引の性質や業界の慣行を考慮した上で、どちらが優先されるべきかを慎重に判断する必要があります。
 さらに、後法優先の原則についても、「新しい契約が古い契約に優先するという考え方は、特に個別契約書が頻繁に更新されるようなケースで非常に重要です。後法優先の原則を正しく理解し、適用することで、契約の実務において柔軟かつ効率的な対応が可能になります。

 

5.トラブルを避けるためのポイント

  1. 契約書の明確化
    基本契約書と個別契約書の優先順位を明確にする条項を契約書に盛り込むことが重要です。特に、取引の内容が複雑である場合や、複数の契約が絡む場合には、条項を詳細に記載することが求められます。
  2. 継続的な見直し
    取引の状況が変わることを前提に、契約書を定期的に見直すことが大切です。取引の内容や条件が変更された場合には、基本契約書と個別契約書の整合性を確認し、必要に応じて契約書を修正しましょう。
  3. 法的アドバイスの活用
    契約書の作成や修正に際しては、法律の専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。特に、複雑な取引においては、法的リスクを最小限に抑えるために専門家の助言を仰ぐことが重要です。

 

6.まとめ

 基本契約書と個別契約書の優先順位は、契約の内容や取引の性質によって異なります。後法優先の原則を含む適切な優先順位を定めることは、取引の円滑な遂行とトラブルの回避に繋がります。企業間の取引においては、契約書の内容を十分に理解し、優先順位を明確にしておくことが、健全なビジネス関係を維持するための鍵となります。これらを理解することで、契約に関する様々なシチュエーションでの判断に役立てていただけると思います。

 

*記事内の事例(ケース)については、行政書士法人フラット法務事務所で経験したものだけでなく想定ケースも含まれ、実際の事例とは異なることがあります。また、関係法令は記載した時点のものです。

 

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